People | 仲間

信州の多様な自然環境を通じて育む「生きる力」

2017.03.27

vol3-02

信州に広がる豊かな自然環境や地域資源を活用し、子どもたちが未来に向かって生きぬく力を育みます。

子どもたちの自己肯定感の低下や孤立感の増加が叫ばれている昨今。
一人ひとりの個性や能力に応じた「出番と居場所」が求められています。
そんななか、信州の多様な自然環境を生かした子ども支援に取り組む団体の皆様に、活動の経緯や手応えをお聞きしました。

子どもにとって幼少期の豊かな体験は、その後の成長や人生に大きく関わると言われています。
そうしたなか、信州の自然環境を生かした遊びや活動は、子どもの体力面だけでなく、 主体性や自立心、好奇心、想像力、社会性、自己肯定感などの向上においても効果が期待されています。
長野県では、広大な県土や、村の数が日本一という多様な地域性、乳幼児期の子どもたちへ自然体験の機会を提供する「森のようちえん」が全国最多であるというアドバンテージを生かし、長野県らしさを生かした「信州型自然保育」を提唱。
2015年より「信州型自然保育認定制度(信州やまほいく)」をスタートし、積極的に自然保育や野外保育に取り組んでいる団体に対して「認定証」を交付しています。
これにより、保護者や保育者が自然保育に取り組みやすい環境を整えています。

考えて行動する野外保育で親も子も成長

そうした制度により「特化型認定園」に認定された園のひとつが「山の遊び舎はらぺこ」です。
「手に届く自然のなかで、保育士や保護者、近所の人も一緒になって子どもたちを育む園をつくりたい」。
そんな願いをもつ5人の母親の声をきっかけに、2005年4月に立ち上がりました。
彼女たちから設立の相談を受けたのは、当時、公立保育園で保育士を務めていた小林成親さん。
自身も“キレやすい”と評されるようになった子どもたちや、衛生と安全面の重視から外遊びよりもゲームなどによる受動的な刺激物の遊びが主流となった子どもの生活様式の変化に危機感を覚え、勤務先の保育園で自然体験を通じた活動を実践していました。
また、小林さんは空腹を感じないままに食事をして残食をする子どもたちの心と体、脳の働きに歪みが生じていると感じたことから、午前中に子どもたちがお腹が空くまで遊ぶ保育も行っていましたが、そんななかで5人の母親と知り合い、自分たちならではの園「はらぺこ」をスタートさせました。
同園の保育には、大きな2本柱があります。ひとつは自然との関わりを中心とする「野外保育」の実践。
もうひとつは、保護者自身が保育士となることで子どもの様子をダイレクトに感じ、多様な子どもと関わることで柔軟性も培う「自主保育」に取り組むことです。

vol3-05

子どもたちは登園すると、年齢に関わらず1日のほとんどを屋外で過ごします。遊びのフィールドは、裏山や近隣の里山。夏は川がプールです。
園の隣の畑では野菜を作って自分たちで調理をし、幼児も上手に包丁を使います。
それに対し、保護者は独自の判断で声かけをして、子どもたちを見守ります。
それぞれが悩み考えることで、親も子も成長するのです。
また、子どもたちはさまざまな保護者と関わる人的環境と自然環境の両面から、生きる力や自己実現の力を育んでいます。

vol3-06

信州ならではの山岳環境で育むリーダーシップ

同じく、2005年4月に立ち上がったのが、上高地をはじめとする県内各地の山岳ガイド活動を通じ、信州の観光振興と環境保全に取り組む「信州まつもと山岳ガイド協会やまたみ」です。
代表の穂苅康治さんは、長野県内の中学校の学校登山も支援するなかで、登頂だけが目的となっている登山に疑問を感じ、さまざまな教科と山歩きを連動させることで環境教育につなげる登山を提案。
そこから、小学生にもっと主体的に自然に親しんでほしいという思いを抱き、毎月一回、さまざまな山に泊まりで出かける登山を通じて自主性を培う自然教室「やまたみキッズ登山クラブ」を始めました。

vol3-07

参加者は毎回10人ほど。低学年と高学年をバランスよく配列し、互いに助け合って登山をします。
リーダーも決め、毎月交替することで指導力を養成。
休憩場所においては、どのような点が休憩適地かのヒントを与え、自然に対する危機管理能力を高めています。
これにより、震災時の対応や集団行動での意思表示などの力も養っています。
こうした自然のなかでの保育や体験を通じ、子どもたちは未来に向かって生きぬく力を体得しています。
さらに、それぞれの人生を充実させていくための自立心やアイデンティティもまた形成しているのです。

vol3-08

<取材協力団体>

▲ このページの先頭へ